両眼視機能とは

前略

お久しぶりの「前略ミルヒトより」となりましたが、本日は少し専門的なお話をしていきたいと思います。

お客様より時折質問のある、
「両眼視機能ってなんですか?」

     
聞きなれない医学用語です。



「あなたの右眼は視力0.9、左眼は視力0.8、両目では1.0です。」
という視力検査はよくある展開ですが、これはあくまで「両眼視力」…

「両眼視機能」≠「両眼視力」

     

        
では「両眼視機能」って!?

      

我々、オプトメトリストの間では「両眼のチームワーク」と表現されることもあり「見え方の質」を指す専門用語です。
「両眼視機能」=「両眼のチームワーク」「見え方の質」

・最近、モノが見づらくなった
・午前中は良いが午後になると目の疲れが出てくる
・疲れてくると、モノがだぶって見える事がある
・ひどい時は肩こり、頭痛もする
・具体的には言い表せないが何か見え方がしっくりこない
など

これらの症状は「近視」や「遠視」、また「乱視」「老眼」という眼の屈折異常が原因と思われている方が大半かと思います。
しかし、状況を改善するために眼鏡やコンタクトレンズを新たに作成したのに良くならないこともある…

    
それは「両眼視機能」に問題があることを疑って良いかもしれません。

       

     

今回の「前略ミルヒトより」ではその「両眼視機能=(両眼のチームワーク)」を紐解いていきたいと思いますので宜しければお付き合いください。

     

      

まずは基本的な語句・定義的なところから。

【両眼視機能】
・見たいモノ、見たい距離を右目と左目が仲良く連携して見ている視覚状態
・左右の目から送られてきた情報を脳で“一つのまとまり”として処理している(できている)状態
を指します


【両眼視機能不良】
上記における異常を指し、下記のように分類されます
1.基本的内斜位
2.基本的外斜位
3.上下斜位
4.輻輳不全
5.輻輳過剰
6.開散不全
7.開散過剰
8.偽輻輳不全

【両眼視機能検査】
両眼視機能の優劣を判断する、または上記の異常状態を特定する検査を指します

この1~8全てを網羅した検査を本格的に実施できている眼鏡店さん、眼科さんは全国でもほんの一握りと感じています。
なぜなら眼位での不良(上に記した1.~3.)のみを調べる検査が一般的にまかり通っており、それを「両眼視機能検査」と言うには個人的には少々物足りない気もしますし、お客様、患者様の眼を診断するにおいて“責任”という意味では少々甘さを感じてしまうからです。

    


     

そもそもなぜ「両眼視機能」という言葉が世に出てきたのでしょう?

端的に返答するなら「人の眼が“正面に”二つ付いているから」と私は答えます。

ではなぜヒトは正面に目が二つ付いているのか?

「一つの目が見えなくなった時に予備があると助かるため」

残念ながらそうではありません。

       

答えは「モノを三次元的に(立体的に)見るため」なんです。

ただこの正面に二つ付いていることが実はやっかい、、、

なぜか?

これまた端的に答えるなら「二つの見えているモノを頭(脳)の中で一つにしないといけないから」です。




ヒトは左右両方の目を使ってモノを見ています。
「ヒトだけではなくどの生き物も二つ目はあるけど?」

確かに二つあります。
しかし目が正面に二つ付いているか、頭部の側面に付いているかで全然、見え方が異なっていることを皆さまはご存知でしょうか?



動物で例えると目が正面についている肉食動物、側面についている草食動物では視界が異なるんです。
前者は「視野はほどほどですが両眼視機能を発揮」できています。
後者は「両眼視機能は最低限で、視野を広く見る」ことを得意としています☟




我々ヒトは肉食動物のさらに両眼視機能特化版!
「両眼視機能が全力で発揮できてモノを立体的に視る」ことを得意としています☟

       

「なぜヒトは正面に目が二つ付く道を選んだのか?」
理由は「狩猟を基本として生存競争に勝つため」と言って良いのではないでしょうか。


進化の過程で起きた目の位置(=正面)と言えますよね。

話は少し逸れましたが改めて
「正面に付いている生き物だけが手に入れた両眼視機能(=両目のチームワーク)」
のお話を進めていきましょう。


一つの目だとモノは立体的に見ることはできません。
「え!?片目をつむっても立体的に見えているけど?」

それは実際に立体的に見えているのではなく、感覚的に「これは立体だ」と脳が補正をかけて見ているからであって、実際には見えているわけではありません。
経験則から脳が判断しているだけなんです。

例として片目を閉じてペンのキャップを外したり付けたりしてみてください。
両目ではスッとできるのに片目だと意外と難しいはずです。

ヒトは二つの目で別々の角度からモノを見ることで立体的に見えるようにできています。
これを専門的には「両眼視差」と呼びます。
両眼視差まで解説すると長くなってしまいますのでここでは割愛させて下さい。



両眼視機能が優秀、すなわち二つの目が仲良く(チームワーク良く)働いていればモノは立体的に見えて、視界も常に快適に(楽に)見えるわけなのですが…

この左右の関係性が良くないと!?

       
モノを立体的に見ることができず“疲れる目”となり、酷いと身体に異常をきたしてしまうのです。

     

「左右の目の関係性が良くない」ってどういうこと??

“右目と左目がそれぞれ自分勝手に別々で動いている”
と考えると理解が早いかもしれません。

同じ目標物を見ても、仲良く連携がとれていないためズレて見えてしまう…

いわゆる「左右の視線がずれる(=視線ズレ)」状態です。
想像するだけで目が疲れてきますよね。

視線ズレは先に記した「両眼視機能不良」の一つ☟

         


聞いたことがあるかもしれませんが、「斜位」とか「斜視」も全てとは言わないですが、この視線のズレが原因で起こります。

    
聞きなれない用語でいうと「輻輳不全」や「調節不全」なども「両眼視機能不良」に含まれます。

この両眼視機能の異常はなぜ起きてしまうのでしょうか?

・外眼筋(目を前後左右に動かす筋肉)の異常
・毛様体筋(遠く、近くを自在に見せてくれるいわゆるピント調節筋)の異常
・左右の視力差
・不等像(眼鏡レンズによる左右の像の大きさの違い)
これらが原因で起きてしまいます。

もっと言うとこれらは「メガネやコンタクトレンズの合っていない度数」で発症してしまうこともあります。
新しい度数の眼鏡を手にした直後は良くても、合っていない度数がジワジワと目をむしばみ、数年後に発症することもあるので実に厄介…

      

でも過度の心配はしないで下さい。

適切な度数の眼鏡を与えればその両眼視機能の異常は回復していきます。
もちろん、できないこともあるのですが少なくともその異常が軽減するチャンスが大いにあります。

「合っていない眼鏡度数、コンタクトレンズ度数が両眼視機能異常を発生させてしまう」
そんなことが原因で後天的に両眼視機能異常に陥ってしまうのはもったいないですよね。

理論に基づき、正しい手順の視力検査で正確な度数(近視・遠視・乱視)を導き出す。
眼鏡で、またはコンタクトレンズで正しい眼の状態にすることが疲れない眼(優秀な両眼視機能を持った眼)の大切な一歩となるのだとご理解頂けたかと思います。

          

ここからは皆さまがよく勘違いしがちなところに触れます。

一般的に世の中では「目がいいね!」の目は1.5以上くらいの遠くがよく見える目で、「視力が出る目」を指しますよね?

     

しかしそのような1.5以上見える方も「両目のチームワークが整っていない」ために、「疲れる目の持ち主」であることが少なくありません。

目が悪い(視力がよくない)方からすると「え、そうなの!?」と思うかもしれませんが、そうなんです。


繰り返しになりますが「両眼視機能」とは「左右の視力が両方とも1.5ある」というハッキリ遠くが見えているかどうかを問うものではなく、「両目で見た映像が脳の中でスムーズに統合しているか」という見え方の質を指しています。






私は昨今の日本の眼鏡作製は「視力の良し悪し」にとらわれ過ぎているのが気になります。

        
例えば「右目1.2、左目1.2ですね。ばっちり視力が出ましたので安心して下さい」
これでは「単に遠くがよく見えるだけの眼鏡」でしかなく「両眼視機能を考慮した眼鏡」とは言いきれません。

確かに視力が出ていることは「健康な眼」の証でもありますので大切なことです。
が、もう一つ大切なことは「両目を正しく使っているか否か」。

たとえ右目1.0、左目1.0で、1.2以上が出てなかったとしても「両目のチームワークが整っている眼鏡」の方が確実に良い眼鏡であると私は考えます。
その理由は「目が疲れないで快適に使えるから」に尽きます。




この業界に何年もいると、左右の目が別々の見方をしている方々に出くわすことは決して珍しいケースではありません。
特に当店のような「視力検査」、もとい「両眼視機能検査」に力を入れ実施しているお店ではけっこうな確率でいらっしゃいます。

その方々が総じておっしゃるのが
「目が疲れます」
「肩凝り、頭痛がします」
「モノがだぶって見えます」
「具体的にはないですが、なんか見え方がしっくりこないんです」
「そもそも眼鏡が使えません、苦手です」
などなど

      

子供の頃は目の使い方も柔軟で良かったのに、大人になったら…

目も他の身体の部分と一緒で筋肉が張り巡らされています。
若い頃はどの筋肉も柔軟でたくましいのですが、歳をとってくるとこの柔軟性もなくなり固くなってしまいます。

いわゆる“老眼”っていうやつです。
この場合の老眼は「手元が見にくくなる」ことではなくもっと広い意味で使っています。


本来は今回の「両眼視機能」のお話と「目の筋肉」のお話を連動して記したかったのですが、長くなりますので今回の「前略ミルヒトより」では一旦ここでひと区切りとします。

続編は次回、もしくは次々回で記したいと思いますので興味のある方はご覧頂けますと幸いです。




それではお話をそろそろ締める方向へ。

今回の「両眼視機能」にまつわる症状は、昨今の視力検査の主流となっている「オートレフ」(片目ずつ覗いて気球などを見る検査機器)に頼る簡易的でスピーディーな検査では分かりません。
適切な検査手順をふんだ「両眼視機能検査」でのみ分かります。


検査時間も最低30分はかかりますので「利益重視」「販売重視」の眼鏡店では見て見ぬふりをされて当然と言えば当然でしょう。


オートレフ☟

オートレフ ミルヒト 検査機械


当店はこの事態に警鐘をならします!

理由はスピーディーに作製された眼鏡が原因で「疲れる眼」になってしまっている方が少なくないから。
これが使用後、すぐに「疲れる」と分かる方ならまだ良いのですが、半年後、1年後に「目の疲れ」「身体の疲れ」の症状が出てくる方もいらっしゃいます。

そうならないためにも「適切な処方度数の眼鏡」はとても大切ですと繰り返し言います。

もしもここ何年も同じ度数で眼鏡を作られている方は、目や身体に何も異常はなくとも次回眼鏡を新調する時は「しっかりとした検査」を推奨します。



両眼視機能不良…
オプトメトリストの識者の中では「その予備軍も含めると国内に8割はいるのでは!?」という話も聞きます。


「疲れない目への最善策」「視力が悪化しない為の最善策」
は基本的には両目のチームワークが仲良く連携している眼、すなわち「両眼視機能」が整っている眼で生活することであると当店は考えています。

このブログを読まれた方で気になる方、心当たりのある方がいらっしゃれば、眼鏡で改善の余地があるかもしれません。
両眼のチームワークを意識した眼鏡で、一生を共にする「健康的で疲れない眼」を維持していきましょう!

そのためにも当店は「両眼視機能」を正確に測ることのできる「米国式21項目検査」を実施する数少ない眼鏡店として尽力していきます。

草々


店主 水谷

名古屋市千種区春岡通6-7
眼鏡店 ミルヒト

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